Kusakabe Lab.

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電子の波なら期待通り

原子の並びが見えるくらいの長さスケールでは、電子の振る舞いは波のように見えます。グラフェンという炭素シートでは、このシートをどのように切り取るかで、電子の波を思うところに「集めてみる」ことが出来ます。どこまで自在にできるのでしょうか? 炭素科学の専門家達は、精密に作る、正確に測る、そして正しく解釈することで、電子の波が予想を超える形で現れることに気付きました。その一つの例が、グラフェンのジグザグ型端に現れる局在した波であるエッジ状態です。現在では制御して端を作成して、走査型トンネル顕微鏡などを用いてこのエッジ状態を観ることで、電子の波が集中して現れる端の構造が沢山あることが分かっています。そのもとになった「気づき」は、波として振る舞う電子の特徴と、その運動方程式を元にして行われた幾つかの発見でした。この電子の方程式を適用して、どのような原子の並びがあると波の特徴が際立つか、が調べられるようになったのです。

原子の並びを分子、リボン状構造、と与えて、波動方程式を適用して調べることで、実験の実測が行われる前に、このエッジ状態があることに人々は気づきました。そればかりでなく、エッジ状態が現れる理由が、電子波動が従う不確定性原理に基づく基礎方程式の持っている内在的な「綺麗さ」が元になっていること、その特徴が幾何学的な性質から決まるある整数が教えていること、に少しずつ気付いていったのです。綺麗さとは、時に対称性という言葉で表現されます。整数とは輪のような図形がある軸の周りを何回周っているのか、という回数に対応することもあります。この考えは日本から笠・初貝の両先生により提出されました。その結果、現在ではより抽象的な考え方を用いて、しかしより容易にかつ具体的に「気づき」を発生させることが出来るようになっています。

不思議なエッジ状態は、普通の端構造では現れないため、エッジ状態が現れないアームチェア型の端は通常の端であって、特異ではないものと見做されていました。ところが、原子層分野での成果に基づいて考察すると、むしろアームチェア型の端にエッジ状態が現れないことの方が特異的だ、と気づくことが出来ます。図1は、そうした気づきが正しく、エッジ状態がアームチェア型の端に現実に現れることを証拠付けるシミュレーション結果の一つです。図2はアームチェア型の普通の端を少し変形するだけで、エッジ状態として端に電子を集めてみる方法があることを教えてくれる図形です。この考察に基づいて実際に変形の方法を見つけてエッジ状態を作ってみることが出来ます。ここまで読み進まれたあなたなら、実測データと抽象的な理解を繋いで研究を進めるこの分野の人々が、どのように新たな世界を創造しているのか、想像ができることでしょう。

グラフェンが作るリボン状やドット状の構造は、電子の波を活用したスイッチやセンサーとして活用することに大きな期待が持たれています。量子力学的な電子波を期待通りに作れるのならば、様々な量子デバイスを設計して実現することもできるでしょう。例えば、アームチェア端こそが、普通には現れないエッジ状態がある方法で欲しい時にだけ作れる理想的な端である、とも考えられます。そうならば、既に化学合成もされているアームチェアリボンを選択的に利用して、感度の高いセンサーやスイッチを作る可能性が出てくると考えられます。
図1


図2
References: M. Ziatdinov, et al., Phys. Chem. Chem. Phys. 19, 5145-5154 (2017).
連絡先 草部浩一 大阪大学大学院 基礎工学研究科
kabe@mp.es.osaka-u.ac.jp

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