Kusakabe Lab.

Previous : ずっとゼロのままかなぁ?

原子層が積層した銅酸化物が教える電子分布への強電子相関効果

銅酸化物と言えば高温超伝導体を思い浮かべることが出来ます。転移温度が150ケルビンを超えうる3つの銅酸化物の原子層面が積層した構造では、興味深い電子のやり取りが原子層の間で起きています。超伝導状態であっても、この物質中の電子は自由な波として運動すると考えてしまった場合には起きないような、層毎の電子濃度の配分が生じています。電子濃度という基本的な量に関する実験結果を説明する段階で、強く相関して電子の運動が生じていると考える必要があるのです。この解釈が正しいならば、原子層を積層した様々な新物質でも、強い相関運動状態に電子が陥ることになります。原子層なら続々と未知現象が現れるぞ、という予想も正しいと言えるでしょう。

物質中の電子の振る舞いをよく再現しながら説明をするには、原子の種類とその配置を特定した計算理論を用いることが必要です。これは、ポテンシャルと呼ぶ平均化された位置エネルギーが与える場(重力ポテンシャルなら重力場ですね。電子の場合は、電磁場が元になった静電場が与えています。)
の中で、量子力学に従う自由な電子の運動状態を表現する方法が与えます。金属ばかりでなく実用上重要な半導体で、比較的上手く説明ができます。この方法によれば、電子の配分を物質毎に決めることができるだけでなく、化学結合を決めて物質の安定さを決定し、外からエネルギーを与えて電子を飛び出させた場合の光電子分光実験を説明するなどの目的でも比較的よい結果を得ることが出来ます。自由な電子の描像と呼ばれるこの方法では、どのような自由電子波が現れるかを決めることで、電子の分布を決めており、どの原子や原子層に電子が溜まりやすいのかも自動的に決まります。

この基本になる電子がどの原子や原子層に溜まるかを、典型的な銅酸化物高温超伝導体で調べてみると、そこには従来の常識からすれば一見意外な結果が現れています。原子層が3枚重なった構造になる水銀系銅酸化物では、電子の波としての運動だけを考える従来の方法では、真ん中の原子層で電子が相対的に少なくなります。これは、化学結合に有利な結合性軌道と言える配置の波だけで足りない分を、非結合性と言える真ん中に振幅が現れない波も使って配分を決める必要があるため、と考えることが出来ます。実際の実験結果は、この結果とは異なって、中央の原子層でむしろ相対的に電子が多くなること、同時に磁性と呼ばれる性質も強まる傾向があることが分かっています。

大阪大学の西口研究員らは、この基本的な電子の配分を決める点でも、電子の相対的な位置関係に強く影響を及ぼす「強い電子相関効果」と呼ばれる性質が働いていることに着目しました。銅酸化物を表現する原子層が積層した系に、Two-particle self-consistent theoryと呼ばれる方法を適用すると、電子の配分が変化して、実験データを説明することが出来るようになる、と気づきました。このように、電子の運動をより現実に即して表現することで、特に興味深い原子層が積層した構造では、特異な超伝導状態などを見つけていけると考えています。

図1


References: K. Nishiguchi, et al., to be published in J. Phys. Soc. Jpn., arXiv:1704.04867.
連絡先 草部浩一 大阪大学大学院 基礎工学研究科
kabe@mp.es.osaka-u.ac.jp